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2016年7月7日

すぐ先にある記録
シェリー=アン・フレーザー=プライス

10分の1秒では、瞬きもできません。例えばロープを巻きつけた石を頭の上でグルグル回すように、目に見えているものがちゃんと動いているのか、あるいは目の錯覚で動いているように見えるのかを、かろうじて判別できるだけの時間が10分の1秒という短さです。この瞬間に、なんとかその石が動いていることを目で追うことができます。しかしその石が10分の1秒に一回転以上動くと、目はその動きが作る円としてしか捉えられなくなります。
短距離選手はその10分の1秒の世界で勝負しています。世界記録保持者とチャンピオンとの違いもこの短い瞬間で決められているのです。

シェリー=アン・フレーザー=プライスが意識するのはその10分の1秒です。一般的には長身選手が活躍することが多い種目ですが、152cmの小柄な彼女は、母国ジャマイカで「ポケット・ロケット」と呼ばれる女子100m走の現役世界チャンピオンです。ただし、彼女はスピードだけではなく、タイムにもこだわります。そのタイムを縮めるためには、テクニックを研ぎ澄ますことが求められます。

「試合に出場する女子アスリートは、スピードを備えた選手です。4人、5人あるいは8人が接戦状態となれば、勝負を決めるのはテクニックの完成度になるのです。」と29歳のフレーザー=プライスは話します。スターティングブロックを飛び出す瞬間の微細な動き、例えば初速をつける段階での頭の位置にも配慮することで、10分の1秒ずつタイムを削り落としていくのです。

2008年の北京でフレーザー=プライスは100mを10秒78で走り、21歳にして世界最速の女性、さらには100mで初めて金メダルを獲得したジャマイカ人女性となりました。この1年前には誰も予想していなかったことでした。

フレーザー=プライスは1986年12月27日、ジャマイカ キングストンの他のどの地区よりもたくさんのレゲエの有名人を輩出し、フットボールクラブで知られ、あまり環境の良くないウォーターハウス地区のシングルマザーの家庭に生まれました。深い絆で結ばれた4人家族の一人娘として、若い母のマキシーンがしっかりと見守る中で育ちました。乱暴な住民やギャングの問題もあるため、マキシーンはフレーザー=プライスには学校が終わると真っ直ぐに家に帰るよう言い聞かせ、路上で大声で叫ぶ人は叱りつけていました。マキシーンが娘に与えた影響は、毎日をきちんと過ごすことだけに限りませんでした。フレーザー=プライスの母親も若い頃、長男のオマーを身ごもるまでは走っていたのです。そして、フレーザー=プライスは、彼女がランナーになった最大の理由は母親にあるといいます。

コーチのステファン・フランシスの厳しい指導のもと、フレーザー=プライスは技術を磨きこれまでに何度も金メダルを獲得してきました(世界陸上の100m種目で3つの金を取った初めての女性です。)「今の私の走り方は自然なものではありません。学んで習得した技術なのです。」と話すフレーザー=プライスは、競技を始めた頃は、「顔から走っていたような感じでした。」と当時を振り返ります。フレーザー=プライスは次のように語っています。フランシスの助けが必要でした。「コーチに膝を高くあげるように言われました。ある夕方、トレーニングでしっかりと膝をあげていなかったことがあり、すぐにコーチから100回膝を高く上げる練習を言いつけられました。しっかりと膝を上げることが身につくまで、常に練習させられました。」

2008年、スタート1歩目の踏み出し、腕の位置など、短距離のすべての局面の動きを磨き上げ、フレーザー=プライスは周囲の予想を裏切って、ジャマイカの100m国内予選で優勝候補に勝ったのです。北京で金を取った後にも、2009年のIAAF世界陸上で優勝。さらには2012年ロンドンの100mについで、2013年と2015年の世界陸上でも優勝しています。
この夏の優勝が叶えば、オリンピック100mで3連勝を果たす初めてのアスリートとなります。

これほど目覚ましい成績ながら、フレーザー=プライスはいまだ100m10秒7の壁を破っていません。女子ではこれまでにたった一人だけがたどり着いた10秒6の記録を、彼女はまだ手に入れられていません。「すぐそこにあるとわかっています。そして毎年、この壁を破れるよう感じられるよう、コンディションを整えています。その瞬間を待って、待って、待ち望んでいます。もうドアに手が届いてノックしているような状態です。2016年、うまくいけばその瞬間が来てくれるはずです。そろそろ来てもいいはずですから。」

記録に意識は向かう一方、彼女の目線は常に内側を向いています。
2008年、陸上の歴史にはそれほど注意していなかった彼女は、自分がジャマイカ女性で初めて100mの金を取ったことに気づきませんでした。彼女はすべての注意を自分の体とそのパフォーマンスに向けていました。自身が言うとおり、短距離はほとんどの人が全く注意を向けない小さなところに信じられないほどの意識を傾けなくてはいけない種目で、10分の1秒単位の世界です。「人とはかなり違う集中の仕方をしています。すべての局面での体の動きを感じています。自分の体は、まるで第六感のように感じられるものです。そして私は一つ一つの局面をきちんとこなしていくことに気を使います。それがしっかりとできれば、歴史が生まれます。」

そのようにして歴史を作った瞬間の彼女の喜びは大変大きなものでした。
緻密なトレーニングやテクニックへの向き合い方からは、勝利の瞬間に、その小さな体で笑顔から沸き起こるエネルギーを支えるのが難しいと思わせるように地面に崩れる姿は予想できませんでした。2009年のベルリン世界陸上100mの後のインタビューでは、勝利の感動を言葉にしようとしても、嬉しすぎて子犬が吠えるように、言葉にならない姿が見られました。
スポーツから生まれた喜びが多くの人々に伝わった瞬間でしたが、この夏にも世界中のファンに、特に、過去二回の大会で男女ともに100m種目の金を勝ち取り、今年のメダル台も独占しようとする国のファンに、また喜びが広がることでしょう。

フレーザー=プライスは、大きな目標を目指す彼女自身が、他のランナーにとっての目標となることを理解し、それが良い結果を生み出すと考えています。「アスリートとしては、原動力になります。『世界が向かってくる。』と言いますが、もしそうなら何をすべきでしょうか。準備をします。その時が来ると、戦いが始まります。そして、その戦いが終わった時に、勝利を手にするのです。」願わくば10秒6の記録とともに。

フレーザー=プライスのトレーニングはNIKE.COM/NTC、アスリートたちのこれまでの道のりや、アスリートのストーリーはNIKE.COM/ATHLETESをご覧ください。

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