2015年7月17日
ビデオにはナイキ フライイーズにまつわる特別な物語がおさめられています。トビー・ハットフィールドがデザインした着脱が容易なフットウェアシステムは、様々な能力を持つ、様々な年代のアスリートが、より優れたパフォーマンスを発揮するための力になります。
ナイキのイノベーションやインスピレーションはしばしば、アスリートの声を聞くという単純な行動から生まれます。会社のミッションにも掲げているとおり、ナイキでは、「身体さえあれば、みんなアスリート」であることを信じています。つまり、アスリートの意見はプロプレイヤーから得られることもあれば、思いもよらないところから得られることもあるということです。
長い間、ナイキのデザイナーの中でもよく知られているトビー・ハットフィールドは、そのような意見に対応するいくつかのプロジェクトに関わってきました。その中の一つで、この3年間彼が特に関心を寄せていたのは、シューズの着脱やしっかりと足をホールドさせることが困難なアスリートのための、簡単に履くことができて足をホールドできるシューズのシステムです。
そのような問題を抱える何人かの個人と一緒に試作品を開発する中、ハットフィールドはこのシステムをいずれは大量生産していきたいという思いが強くなりました。その理由となった一人が、マシュー・ウォルツァーです。
2012年夏、ウォルツァーは高校2年になろうとしていました。この年の若者らしく、彼も大学進学への期待や不安を膨らませていました。そんな彼の一番の不安は、シューズの紐を縛ったりほどいたりすることができないことでした。
ウォルツァーは予定より2ヶ月も早く、未熟児として生まれました。出生時の体重は1,300gに満たず、肺が未発達だったために脳性麻痺が起きてしまいました。医師が予想した数々の身体上の困難を乗り越えて来た彼でしたが、片手しか自由に動かすことができないため、シューズの紐を縛ることには今でも悩まされています。大学に進学すること自体大きな挑戦であるのに、他の人にシューズの紐を縛ってもらうことを頼まなくてはいけないことを心配したウォルツァーは、ナイキに手紙を書きました。
「私の夢は、毎日誰かにシューズの紐を締めてもらわなくてはいけないという心配をせずに、自分の好きな大学に進学することです。私はこれまでずっとナイキのバスケットボールシューズを履いてきました。歩くために足首の支えが必要なので、このタイプのシューズしか履けないのです。
16歳になり、私は自分一人で洋服を着ることはできますが、今でも親にシューズの紐を締めてもらわなくてはなりません。自分で自分のことを全てできるようになりたいティーンエイジャーとして、これはとても不満に思うと同時に、時に恥ずかしくも感じています。」
ウォルツァーの手紙はまもなく、彼と同じような問題を持つスペシャルオリンピックスの選手たちと仕事をしてきたハットフィールドの手に届きました。そしてハットフィールドは、パラリンピック選手のためのデザインを手がける傍ら、ウォルツァーにも連絡を取り、彼の要望にかなう試作品の開発を始めました。
「マシューとの仕事の仕方は、他のアスリートとの仕事と全く同じです。大変素晴らしい協力を得ることができました。」とハットフィールドは振り返ります。
ウォルツァーは、自分と他の多くの人の役に立つことになるであろうシューズを、自分自身が直接ハットフィールドと一緒にデザインしたことに驚いていると話します。実際、自分の手紙にまともな返事が来ることもそれほど期待していなかったのです。
「アメリカンフットボールでいう『ヘイルメリー』を試みたのです。正直にいうと、期待はほとんどしていませんでした。私の要望を聞きましたという、丁寧な文面の手紙が帰ってくるものだと思っていました。今の私の感謝の気持ちは、世界中にある「ありがとう」をかき集めても足りないくらいです。」
2012年、ハットフィードがデザインしたテスト用の試作品が、ナイキからウォルツァーの元に届きました。
「優れた才能を持つデザイナーの皆さんが心を込めて作ってくれたシューズのおかげで、生まれて初めて自分ひとりでシューズを履くことができました。毎朝このシューズを履くたびに、これまでにないほどの独立心と達成感を感じています。」と当時のウォルツァーは述べています。
しかし、ハットフィールドはそこでやめませんでした。ウォルツァーや同じ悩みを持つアスリートのために、もっと良い解決策を提供するための作業を続けたのです。ハットフィールドとチームは1年以上をかけてデザインを改良し、ベルクロ、ジッパーからダイアル付きのケーブルなど、様々なシューレースを使わない方法を試しました。試作品開発にあたり、ハットフィールドは、ナイキ ハイパーダンク、ナイキ ズーム ソルジャーなど、ウォルツァーの好きなバスケットボールプレイヤーのレブロン・ジェームズに関わるシューズを意識して開発しています。
「レブロンのフットウエアは、マシューが必要とする足首のサポートを提供できるのです。ただし、ハイトップのシューズは、脱いだり履いたりすること自体が難しくなるので、単に紐の部分を取り替えるというだけではなくて、足がもっと簡単に入れられるようなシステムを作ることに注力しました。」
ハットフィールドが3 年をかけて開発したのがナイキ フライイーズです。
フライイーズは、かかとのヒールカウンターの近くで開閉するジッパーを採用し、足の出し入れが簡単にできます。さらに、このシステムは足をしっかりとシューズに安定させられるので、これまでのようにシューレースを閉める必要がなくなります。
「マシューをはじめ、障害を持つアスリートと話をするうちに、シューレースに代わるものに加え、シューズの着脱が簡単であることも大事であるとわかりました。また、一人一人の身体の動かせる範囲も異なるため、誰にでも対応できる解決策を提供するというのはとても難しいものでした。自分一人でナイキのシューズを履くことが難しかった人にとって、この製品はとても大きな意味を持つものになると考えています。」とハットフィールド。
大学進学と、自分で自分のシューズを履くというウォルツァーの夢は叶いました。現在、彼はフロリダ・ガルフ・コースト大学の2年生で、特製のナイキ ズーム ソルジャー 8 フライイーズを履きこなしてキャンパスを駆け回っています。さらに、ウォルツァーは憧れのバスケットボールプレイヤーとの対面も叶い、ジェームズは彼の好意に応えました。
「マシューがきっかけとなって、ナイキが彼だけのためだけではなく、多くの人のためにも特別なものを提供することができるようになりました。」とレブロンは確信します。「このシューズと、マシューが与えてくれた刺激は、ナイキ、マシュー、そして私を超えて大きく広がっていくことでしょう。私のシューズがそのプロセスの一部となったことをとても光栄に、そしてありがたく思っています。これは、予想だにしなかったことで、ナイキは一生の記憶にも残るような素晴らしいものを作ってくれました。」
レブロンが述べたとおり、ハットフィールドが実現しようとしていたことは、たった一人のアスリートのためだけのものではありません。
「このようなソリューションを求めていた人は現実に存在するので、多くの人の役に立つことができるというのは嬉しいことです。ナイキのミッションの最後にも、「身体さえあれば、みんなアスリート」という但し書きが、アスタリスク(*)と共に添えられています。つまり、私たちは常に全ての人のことを考えているということです。」とハットフィールドは付け足します。
そのアイデアを裏付けるように、レブロン ソルジャー 8 フライイーズには、シューズ内側のストラップの下にアスタリスクが付けられています。ハットフィールドのチームは、すでにバスケットボールシューズ以外のスタイルの開発にも着手していますが、これから登場するフライイーズのデザインにもアスタリスクが添えられます。
ナイキは7月25日(土)から8月2日(日)にロサンゼルスで開催される2015スペシャルオリンピクス・ワールドサマーゲームズに参加するアメリカの2つのバスケットボールチームにズーム ソルジャー 8 フライイーズを送ります。
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