2016年7月11日
スタート前に結果が決まるレースもあります。観客の声援の中、他のランナーが準備をしているとき、フェリックスはすでに、頭の中でレースをしています。ブロックから飛び出し、ゆっくりと体を立て、そして、大きな腕の振りで加速を続ける。名前が呼ばれるよりずっと前から、彼女はすでに自分の頭の中の世界でスタートを切っています。
名前がアナウンスされると、ほんの一瞬、意識が戻ります。すこしだけ微笑みながら、観客に手を振ります。そしてまた、自分の頭の中のレースの世界に戻り、レースに求められる技術を頭に思い浮かべ、1位と2位の差を決めるような細部の調整をします。その際、「他のことは全く意識しません。」と彼女は言います。
カメラが彼女を捉え、スタジアムの大画面に映ると、兄のウェスが表情を確認します。顎の右側のほんの少しの動きや、眉間のしわから読み取るのです。速く走れるか、メダルが取れるか、あるいは記録を破れるのか、妹の表情から読み取れ「大きく外れたことはありません。」とウェスは話します。
フェリックスはロンドンの200mの金メダリストで、400mの現世界チャンピオンです。これまでに4つの金メダルを取り、さらに4つ取りたいと望んでいます。今度の大会では、200mと400mでの金獲得を目指しています。今回、リオの陸上競技日程が変更となり、彼女のこの挑戦が可能となりました。
2つ金を取れば、女性としては初めての記録となります。これまで誰にも成し得なかったのには、理由があります。200mではスタートが重要な意味を持ち、さらに何度もコーナーを回りながら激しくスピードを切り替え続ける、サバイバルレースのようなフィジカル面の激しさとメンタル面の辛さがあります。一方400mでは、いつ仕掛け、加速し、決着をつけるのか考え、スピードも失わず長距離を戦術的に走る必要があります。勝敗の差は紙一重。4年間の準備期間があっても、技術面にほんの少しのほころびがあれば、優勝候補が敗者になる世界です。
フェリックスは2004年と2008年に2つの銀メダルを獲得した後、2012年に個人種目で初めて金メダルを獲得しました。30歳になった今年、4回目の大会に挑みます。何時間もジムで行ったトレーニング、トラックでの苦しいインターバル練習、コーチとの心理戦、休養中の焦りを感じる日々、スタートでの右手を置く位置への注意、ロサンゼルスのサン・ビンセンテ通りでの長距離練習。全てがこの大会のための準備なのです。大会前、彼女に聞いた質問リストの中に、彼女が恐れているものは何か、という質問がありました。彼女の答えは「距離」でした。「誰もがランナーズハイを感じると言いますが、私はそれを感じたことがありません。」
彼女を見るだけで高揚感を感じることができます。ありえないくらい軽い足取りを見せるフェリックスは、もっともエレガントな走りを見せるランナーの一人です。そのスムーズで効率の良いフォームによって、スピードが生まれるように感じるのです。とはいえ、見た目に誤魔化されてはいけません。ほとんどのレースは、タフであり、選手がしのぎを削り、痛みさえ伴うものなのです。ごくまれに、技術、体の動き、スピードが一つになった時、レースが簡単になることがあります。「まるですべて流れるように、正しい要素がうまくはまる感じです。これまでに数回しか経験したことがありませんが、まるでなんの努力もせずに走れる感じです。」と、フェリックスは感覚的なことを言葉を探しながら説明します。
彼女の兄も、すべてがうまくいくレースを待ち望んでいます。これまでリレーで、彼女がシンプルに、そして自由に走る姿を見ており、次のように話しています。「これまでに見た中で一番綺麗な走りでした。今でもそんな瞬間を待ち望んでいます。彼女が自分の世界に入り込み、そこから彼女だけができる速さと軽さのある動きへと飛び出していく瞬間です。」
フィニッシュラインで彼女が勝利を決める時、その姿を目にすることができるかもしれません。他のライバルは誰も、彼女のようにスピードを保持することはできません。「私がゴールで光る瞬間、みんなは、辛い思いをしているはずです。」
アリソン・フェリックスのトレーニングはNIKE.COM/NTC、アスリートたちのこれまでの道のりや、アスリートのストーリーはNIKE.COM/ATHLETESをご覧ください。
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